第1 はじめに
破産法では、破産債権についての債権者間の公平・平等な 扱いを基本原則とする破産手続の趣旨が没却されることのな いように一定の場合に相殺を禁止する一方で、相殺の担保的 機能に対する合理的な期待が認められる場合にはかかる相 殺禁止を解除することとしています。破産法72条2項2号はこう した相殺の担保的機能に対する合理的な期待を保護するた めの規定の一つであるところ、同規定に関して債権者の相殺 権を制限する旨の判示をした高裁判決(福岡高裁平成30年9 月21日判決(金法2117号62頁)。以下「平成30年福岡高判」と いいます。)を事業再生・債権管理Newsletter2019年8月号 にてご紹介しましたが、近時、平成30年福岡高判を破棄自判 し、「真逆の」結論を示した最高裁判決(最高裁令和2年9月8 日第三小法廷判決(民集74巻6号1643頁)。以下「令和2年最 判」といいます。)が出されました。そこで本稿では、債権者の 相殺権保護の範囲の拡張を示唆する令和2年最判を紹介し た上で(後記第2ないし第4)、令和2年最判が破産債権者に よる相殺権の行使の可否ないし限界の議論に及ぼす影響に ついての若干の考察(後記第5)を行います
第2 事案の概要
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